結論:10月12〜15日の4営業日で、世界の主要AI・半導体株は時価総額ベースで約1兆ドル下落したと報じられている。引き金は、中国CXMT(長鑫存儲)の新たなメモリ構造技術と「2029年にメモリ供給が需要を上回る」という見方、そして金利への警戒だ。ただし足元の実需が崩れたわけではなく、「将来の供給過剰」を織り込む動きが先に出た、というのが構造的な見立てである。
4営業日で約1兆ドル──何が起きたのか
韓国のソウル経済日報(10月16日付)がCNBCの集計を引用して伝えたところでは、世界の時価総額上位20のAI・半導体銘柄は10月12〜15日の4営業日で合計約1兆ドル(約1,340兆ウォン)減少した。下落額が最大だったのはNVIDIAで約5.3%安、約2,910億ドル。続いてSK hynixが約2,438億ドル、Samsung Electronicsが約2,373億ドルを失い、メモリ大手2社とMicronで下落額全体の約4割を占めたという。
なお、Benzinga集計として、Samsung、SK hynix、Micron、キオクシア、SanDisk、Western Digitalのメモリ・ストレージ6社の時価総額が10月2日以降で約1.09兆ドル減ったとも伝えられている。いずれも報道ベースの数字であり、集計の起点や対象によって差が出る点には注意したい。
売りの火種①:CXMTの新技術と「2029年過剰」論
報道によると、CXMTがメモリの記録密度を高める新たな構造技術を発表した。これに加え、Tesla CEOのイーロン・マスク氏がXで「中国は2028年に膨大な量のRAMを生産する」と投稿したことも市場心理を冷やしたとされる。こうした材料から、2029年ごろにはメモリの供給が需要を上回るという議論が広がった。
ただし、D.A. DavidsonのGil Luria氏はCNBCに対し、中国勢の影響を受けるのはSK hynixとSamsungであってMicronではないとの見方を示したという。中国メモリの拡大は、汎用DRAMの価格競争力に直結しやすい一方、HBMのような先端品との距離はなお大きい。つまり、影響は製品レイヤーごとに濃淡が出る。
売りの火種②:好材料でも売られる「期待の先食い」
象徴的なのがTSMCだ。10〜12月期の売上高を最大543億ドルとするガイダンスは市場予想を上回ったが、株価は台北で2.0%安、米国預託証券(ADR)も1.8%下落した。業績が良いのに売られるのは、市場がすでに「高い成長」を織り込んでいたためと読める。TSMCの直近決算については7〜9月期の売上が過去最高だった件でも整理している。
もう一つの要因は金利だ。報道では、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げへの警戒が、AIデータセンターの資金調達コストを押し上げるとの懸念につながったとされる。AI投資は巨額の外部資金に支えられており、資金コストの変化には敏感に反応しやすい。
実需はどうなっているのか──供給側の足元データ
株価の動きとは対照的に、供給サイドの足元は逼迫している。TrendForceは2027年のHBM平均単価が前年比121%上昇すると予測し、4Q26の汎用DRAM契約価格も前期比10〜15%上昇を見込んでいる。Samsungも7〜9月期の暫定営業利益が約107兆ウォンと報じられたばかりだ。また、ASMLは2027〜28年の供給が需要に届かないと述べ、SEMIも米州の300mm装置投資が2029年に406億ドルへ倍増すると予測している。
中国側でも、メモリ試験装置メーカーがHBM需要を追い風に台頭するなど、供給能力を積み増す動きは確かに進んでいる。供給が増えること自体は事実で、論点は「いつ、どの製品で需給が緩むか」に移っている。
構造的に何が起きているのか
今回の下落は、需要の急減ではなく「2029年の供給」という遠い論点が、金利と高い期待値の上に重なって一気に価格へ反映された局面と整理できる。メモリは設備投資から生産までのリードタイムが長く、供給の増減を数年先に織り込む市場だ。中国勢の技術進展が報じられれば、まず先端でない領域の価格見通しに影響し、その後に収益の高い製品へと議論が波及する。
今後の注目点は三つある。第一に、CXMTの新技術が量産・歩留まりの面でどこまで実用化されるか。第二に、HBMと汎用DRAMで価格動向が乖離するか。第三に、金利動向がAI投資の資金調達を左右するかどうかである。いずれも確定した情報ではなく、報道と各社の今後の開示を待って判断すべき論点だ。
出典:CNBC「Memory stocks are getting hammered. China and a 2029 oversupply are the big worries」(2026年10月15日)、CNBC「Nvidia, SK Hynix, ASML, SoftBank stocks: Global tech rout, AI funding worries」(2026年10月15日)、ソウル経済日報「AI, Chip Stocks Lose $1 Trillion in Market Value in Four Days」(2026年10月16日)。数値は上記報道ベース。
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