結論:ASMLの2026年7〜9月期決算で最も重要なのは数字そのものより、同社が「2027〜2028年に計画している供給量は顧客の需要に満たない」と明言した点です。半導体の成長制約が、ウエハーやメモリ、パッケージに続いて「製造装置、とりわけEUV露光装置」へ移りつつあることを示しています。以下は2026年10月14日時点の報道をもとにした整理で、数値は媒体により差があるため報道ベースとして扱います。
ASMLの7〜9月期決算で何が起きたか
報道によると、ASMLの7〜9月期の売上高は約116億6,000万〜117億ユーロで前年同期比約55%増、純利益は約50億ユーロでした。前年同期の純利益が約21億ユーロだったため、利益は2倍以上に膨らんだ計算です。2026年通期の売上高見通しは440億〜450億ユーロに引き上げられました。従来は430億〜450億ユーロで、今年3度目の上方修正にあたります。
一方、ドル換算の売上高は市場予想をわずかに下回ったと伝えられ、発表後に株価は軟調でした。一株利益は予想を上回っており、「売上が予想に届かなかったから株が下がった」というより、期待が高すぎる中での利益確定と見るのが自然です。なお粗利益率は、記録的な水準とする報道と、5割台半ばの見通しとする報道があり、確定した数字は同社の公表資料で確認する必要があります。
出荷面では、2026年にEUV装置を約65台出荷する計画と報じられています。これは2025年比で5割以上の増加です。EUV装置は1台あたり1億ドルを大きく超える価格とされ、世界で供給できるのはASMLだけです。
「2029〜2030年の注文」が意味するもの
CEOのクリストフ・フーケ氏は、顧客が短期・中期の需要見通しを引き上げており、その主因はAI投資の規模と継続期間への期待だと説明したと伝えられています。さらに一部の顧客は2029年・2030年分の注文を入れたいと申し出ているとされます。装置の納期はすでに数年単位であり、これは「枠の予約競争」が始まったことを意味します。
ここに構造的な変化があります。これまで半導体の投資判断は、需要を見て工場を建て、後から装置を入れる順序でした。しかし装置の供給が先に詰まるなら、顧客は需要が確定する前に装置の枠だけを先に押さえる必要があります。TSMCが米国で大型キャンパスを検討していると報じられた件(関連記事)や、SamsungとASMLが2028年にHigh-NA EUVをDRAM量産へ導入すると発表した件(関連記事)も、この「枠の確保」という文脈で読むと整合します。
ASMLは、すでに公表している2028年向けの約30%の能力拡大に上乗せできないかを検討していると伝えられています。ただし装置は光学系や光源など多数の部品供給網に支えられており、増産は一朝一夕にはできません。供給側の増強が遅れるほど、顧客側の予約が先行する構図は続きます。
メモリ各社の収益拡大が装置投資へ回る流れ
需要側の背景には、メモリ市場の好調があります。Micronは直近の四半期で売上542億ドル、粗利益率87%と発表しました(関連記事)。DRAMシェアではMicronがSK hynixに1ポイント差まで迫ったとも報じられています(関連記事)。TrendForceは4Q26のNAND契約価格が15〜20%上昇(関連記事)、汎用DRAMも10〜15%上昇すると予測しています(関連記事)。
Samsungの7〜9月期暫定営業利益が約107兆ウォンと報じられた件(関連記事)も含め、メモリ各社のキャッシュフローは急拡大しています。この利益が次の設備投資に向かい、その一部がEUVを含む露光装置の発注になります。つまり、メモリ価格の上昇は装置メーカーの受注見通しを押し上げる先行指標でもあります。
もう一つ見落とせないのが、Nanya・Winbondの9月売上が過去最高と報じられたように、逼迫が先端品だけでなくレガシー領域にも及んでいる点です(関連記事)。装置需要は最先端ノードだけでなく、成熟ノードの増設にも広がる可能性があります。
注意点:期待の高さと、投資サイクルの反転リスク
留意すべき点は二つあります。第一に、ASMLの需要見通しはAI投資の「規模と継続期間」に強く依存しています。決算当日の前後には、AI投資の過熱を警戒する発言を契機に韓国や日本の株式市場が大きく下げたとも報じられており、市場は強気一辺倒ではありません。AI向け設備投資が減速すれば、2029〜2030年の予約の確度も変わりえます。
第二に、装置の逼迫は顧客の選別にも影響します。Intelの14Aでは外部顧客との協議が「評価」から「生産枠の確保」へ移ったと報じられており(関連記事)、MicronがNVIDIA向けHBMのベースダイにTSMCの3nm級を採用すると報じられた件(関連記事)とあわせ、先端ロジックと先端メモリが同じ製造資源を取り合う関係が強まっています。装置を確保できた企業が次世代製品を出せるという、ASMLを起点とした序列が生まれつつあります。
投資や事業提携を検討する立場では、各社の決算で「装置の納入時期」と「設備投資額の見通し」を併せて確認することが、需要の持続性を測る実務的な手がかりになります。
出典:Yahoo Finance「ASML Raises Sales Forecast For A Third Time…」(2026年10月14日)、Startup Fortune「ASML says chip tool demand will outrun its supply through 2028」(2026年10月14日)。数値は報道ベースであり、正式な数値はASMLの公表資料をご確認ください。
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