結論:中国のDUV露光装置の国産化は、「装置を組み立てられるか」ではなく「投影レンズと光源という二つの部品を誰が供給するか」という問題に収束しつつある。2026年9月8日にFinancial Timesが報じ、TrendForceが同日整理した情報は、Huaweiが露光装置メーカー本体ではなく、その上流にある超精密光学と高出力レーザーのサプライヤーへ資金を流している構図を示した。筐体は組める。組めないのは中身である。
何が起きたか──上海・裕良昇の国産DUVと「年内12台」
FTの報道(TrendForce経由、2026年9月8日)によれば、Huaweiは先端製造装置の基幹部品を開発する中国企業を支援しており、その中心にあるのが上海の装置メーカー「裕良昇(Yuliangsheng)」である。同社は中国初とされる先端DUV(深紫外線)露光装置を共同開発し、2026年末までに12台を生産する見通しと報じられた。装置はSMIC(中芯国際)を含む中国のチップメーカーと、Huawei自身の生産ラインでテストが進んでいる。
ただし検証対象は最先端のAIチップではない。エンジニアが精度を追い込んでいる段階であり、まずは複雑度の低い半導体で回している、というのがFTの描写だ。狙いと現状の間にはまだ距離がある。需要側の逼迫については中国AI半導体が2か月で20〜50%値上げ──Ascend 950DTが25万元超でも触れたとおり、圧力は明確に先行している。
なぜ「装置メーカー」ではなく「部品メーカー」に資金が入るのか
構造的に重要なのはHuaweiの投資先である。裕良昇は老舗のSMEE(上海微電子装備)の支援を受けて複数のDUVプロトタイプを開発しているが、一部は依然として投影レンズと光源で海外部品に依存する。Huaweiが資金を投じているのは、まさにこの二つの穴を埋めようとするサプライヤー層だ。コーポレートベンチャー部門のHabo(哈勃投資)と、Huawei出資の深圳元智星火ファンドが、いずれもボトルネック部品の企業に入っている。
これは垂直統合で装置を自作する動きではなく、装置メーカーが買える国内部品市場を人為的に作りにいく動きである。露光装置は数百社の供給網の上に成り立つ製品であり、装置企業を1社育てても、その下に供給層がなければ量産できない。中国勢が後工程で同じ論理を展開している点は中国装置3社が後工程へ雪崩れ込むで整理したが、前工程リソでは部品の壁がはるかに高い。
投影レンズと光源──最後まで残る二つの穴
投影レンズでは、Haboと深圳元智星火が福建智旗光電(Fujian Zhiqi Photonics)に出資している。2022年に光学材料メーカーCastechからスピンオフした超精密光学企業で、Castech自身は過去にASMLとHuaweiを顧客に挙げていた。一方、裕良昇のDUVにはZeiss製レンズが使われていると報じられるが、ZeissはFTに対し「リソグラフィ光学はASMLにのみ販売している」と回答している。関係者は二次流通市場経由の入手可能性を指摘する。国産装置の中核に、供給者が公式に認めていない外国製レンズが載っている──試作では成立しても、量産台数を積んだ瞬間に破綻する構造だ。
光源も同様だ。DUV用エキシマレーザーは日本のギガフォトンとASML子会社Cymerがほぼ寡占しており、中国側の最有力は北京科益虹源(RSLaser)である。同社もHaboの出資先で、旧世代のSMEE製装置に供給した実績がある。SMEEはSEMICON China 2026で28nm対応の液浸DUVが顧客検証の最終段階にあると説明し、その光源はRSLaser製とされる(公式発表ではなく投稿ベースの情報)。中国の国産リソは、最上流の二点で同時に外部依存を外しにいっている。
「5台」と「12台」の食い違いが示すもの
ロイターは2026年7月28日、国有の上海愛升納(裕良昇とSMEEの人員を統合したとされる)が2026年に約5台、2027年に20台を目標としていると報じていた。今回の「年内12台」はこれを大きく上回る。矛盾というより、報道ごとに「どの主体の、どの世代の装置を数えているか」が異なる可能性が高い。読み取るべきは台数ではなく、「国産DUV」という語がまだ一つの対象を指していないという事実だ。外から見える数字と内部実態のずれはCXMT「合肥プロジェクト」が法廷で露出のように、この産業ではむしろ常態に近い。
商用採用という壁と、削り合う時間
FTが最後に指摘するのは商用採用の壁だ。SMICのような主要ファウンドリは裕良昇の装置を購入・テストしているが、実生産ではASMLに依存し続けている。そのASMLの中国比率は、2026年第2四半期の出荷地ベースのシステム売上で14%、第1四半期の19%から低下した。一方で8月25日には、米国がASMLの対中DUV販売・保守をほぼ全面的に禁じる方向を検討しているとの報道も出ている。
中国側は「保守が止まる前に国産の代替を立ち上げられるか」、米国側は「代替が立ち上がる前に締められるか」。互いの時間を削り合う競争であり、技術の優劣だけでは決着しない。ASMLの本丸であるHigh-NA EUVがさらに先へ進んでいることはASML「12インチマスク」にIntel・TSMC・Samsungが合流で扱ったとおりで、中国が28nm液浸を固める間に、先端側の距離はむしろ開いている。
M&A・参入の視点:価値はボトルネック部品に移る
示唆は明快だ。第一に、露光装置そのものより、光学結晶・超精密レンズ・エキシマ光源といった「代替が効かない部品」に資金と交渉力が集まる。Huaweiの投資先選定は、その優先順位を外部に開示してしまっている。第二に、ギガフォトンのように寡占的地位を持つ日本の光源・光学・材料プレイヤーは、地政学的に「押さえるべき資産」として評価される局面に入る。国産化が「安い代替品が出る」話ではなく価格形成の主導権が移る話である点は、CXMTの営業利益率82%がSK hynixを上回ったが示すとおりだ。
第三に、供給制約が需要側の価格に跳ね返る経路は、すでに他分野で可視化されている。Intelが10月に再び10%値上げやOpenAIの「Samsungでも作る」発言と2日後の否定が示すのは、どの階層であれ「作れる場所が一つしかない」状態がそのまま価格と交渉力になるという事実である。リソグラフィはその最も極端な事例であり、だからこそHuaweiは装置ではなく部品に金を入れている。
出典:本稿の多くは報道ベースで、各社の公式発表ではない。Financial Times(2026年9月)/TrendForce「Huawei Reportedly Backs China’s DUV Drive, with 12 Systems Targeted by End-2026; SMIC Testing Underway」(2026年9月8日)/Reuters「China starts production of home-grown immersion DUV chipmaking tools」(2026年7月28日)/ASML 2026年第2四半期決算(2026年7月)
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