【2026年9月】CXMT「合肥プロジェクト」が法廷で露出──620工程のレシピが中国DRAMシェア10%を作った

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結論:中国DRAM最大手CXMT(長鑫存儲)が2016年の設立直後から「合肥プロジェクト」と呼ばれる文書化されたロードマップを持ち、Samsung ElectronicsのDRAM製造レシピ「PRP(Process Recipe Plan)」620工程の取得と技術者の引き抜きを、月単位の工程表として計画していた——韓国の法廷に提出された資料の内容が2026年9月4日に相次いで報じられた。ここで読むべきなのは「中国が技術を盗んだ」という道徳論ではない。DRAM産業の参入障壁が、特許でも装置でもなく「620工程の手順書と、それを読める人間」に集約されていたという構造が、司法記録という形で初めて外部から可視化された点である。

目次

合肥プロジェクト──「2年で量産」を月単位で設計した工程表

韓国メディアNoCut Newsが伝えた法廷資料によれば、この計画は2016年8月ごろ、CXMTの開発責任者(Samsungの元DRAM開発リーダー)が主導して作成されたとされる。CXMT自体の設立は2016年6月、安徽省合肥市。政府系資金約19億ドルでスタートしたが、当時は自前の研究設備も研究計画も実質的に持っていなかったと検察は主張している。

報じられた工程表は極めて具体的だ。2016年9月までにSamsungのPRPを入手、10月までに主要技術者を引き抜き、2017年7月に研究開発を完了、2018年8月に月産1万枚でDRAMウエハ生産を開始——設立からわずか2年強で量産に到達する計画である。通常、メモリ工場は立ち上げだけで2〜4年かかる。研究開発期間を計画表から事実上消し込んでいたことになる。

検察側の主張では、2016年8月にCXMTはまず引き抜いた元Samsung技術者たちの「記憶」に頼って18nm品のウエハ試作を試みたが不十分で、その後PRPへの不正アクセスを経て、9月に自社版のPRP文書を作成した。この文書には装置サプライヤー名と型番まで含まれていたという。

620工程のPRPが示す、DRAMの本当の参入障壁

PRPは620の製造工程を網羅し、装置・消耗材・製造手法のデータを含むとされる。これは半導体産業を見るうえで決定的に重要な事実を含んでいる。DRAMの難しさは「何を作るか」ではなく「どの装置に、どの薬液を、どの条件で、どの順番で流すか」にあるということだ。

装置は買える。EUV以外の主要装置は中国国内でも調達可能性が広がっており、中国装置3社が後工程へ雪崩れ込む構図はすでに現実になっている。素材も買える。流量・濃度計測のような周辺技術も市場から調達できる。買えないのは、それらを組み合わせて歩留まりを出すレシピという暗黙知だけであり、通常はこれを自力で積み上げるのに5〜10年かかる。合肥プロジェクトは、その唯一の障壁を文書ごと移転しようとした計画だったことになる。

逆に言えば、装置や素材のサプライヤーにとっての示唆も明快だ。顧客のレシピに深く埋め込まれた装置ほど代替が効かない。TSMCがHBM接合で5μmマイクロバンプを継続する判断のように、プロセス選択の慣性は装置サプライヤーの序列をそのまま固定する。

「圧縮された2年」がシェア4%→10%に化けた

この裁判は2024年1月から韓国の法廷で続いており、すでに複数の有罪判決が出ている。PRPの一部を手作業で複写して転職したとされる元Samsung研究員(Jeon氏)は懲役7年の判決を受け、今回の審理では証人として出廷した。

一方で、経済的な結果はすでに出てしまっている。CXMTの世界DRAMシェアは2025年第2四半期の約4%から、2026年第2四半期には約10%へ拡大したと報じられている。Samsung・SK hynix・Micronの3社合計シェアが90%を割ったのは10年以上ぶりだ。AIデータセンター需要が世界半導体売上のメモリ部門を前年比305%増まで押し上げるなかで、供給できる玉を持っていた者がそのまま果実を得た形である。

設備面でも、CXMTは12インチ工場3拠点を稼働させ、報道ベースで年内に合計35万枚規模——Micronの37.5万〜38.5万枚に迫る水準に達するとされる。さらに北京に第2拠点を計画し、稼働後は月産60万枚超を狙うという。マイクロンがHBM生産能力を年内2倍・月産10万枚へ引き上げる動きと同じ土俵で、ウエハ枠の物量戦が始まっている。

調達資金の7割は「HBMではなく汎用DRAM」へ

CXMTは2026年7月に上海STAR市場へ上場し、株価は466%上昇、約86億ドルを調達して中国株式市場で最も時価総額の大きい半導体企業となった。注目すべきは資金使途で、報道によれば約70%が汎用DRAMの増産に向かい、より高収益なHBMではない。CXMTはAlibaba傘下T-HeadやCambriconにHBM3Eのサンプルを供給した段階にとどまる。

これは戦略として合理的だ。HBMは先端パッケージと歩留まりの壁が高く、TSMCの必要装置台数が半年で1.9倍に膨らんだように装置投資の要求も桁違いになる。一方、AI需要がHBMに製造能力を吸い上げた結果、汎用DRAMは慢性的な品薄に陥っている。先端を追わず、空いた需要の穴に物量で入る——CXMTが選んだのは、レガシーロジックで中国勢が繰り返してきた勝ち筋の、メモリ版である。

日本企業とM&A実務への含意

第一に、価格である。汎用DRAMに10%の新規供給者が入ることは、中長期的には価格の天井を作る要因になる。ただし当面はAI需要の吸収力が上回っており、ADIが値上げを「増産原資」に振り向けているように、部品メーカー側の価格転嫁局面は続く。装置・材料の受注環境は当面堅い。

第二に、デューデリジェンスである。半導体関連のM&Aにおいて、対象会社の競争優位が「特許」ではなく「プロセスノウハウと少数のキーパーソン」に依存しているケースは極めて多い。合肥プロジェクトが示したのは、その優位が人の移動と文書1本で消えうるという現実だ。人材のリテンション設計と営業秘密管理体制の実査は、もはや法務チェックリストの一項目ではなく、バリュエーションの前提そのものである。

第三に、BroadcomのカスタムXPUがGPU一極構造を割りにいくのと同様、メモリでも「3社寡占」という前提が崩れつつある。サプライヤー選定でも投資判断でも、寡占を前提にした需給モデルは点検が必要な時期に入った。

なお、本記事の内容は韓国検察の主張および報道ベースの情報であり、CXMT側の主張や最終的な司法判断を反映したものではない。損害額についても、韓国検察が2025年12月時点で「少なくとも数十兆ウォン」としている一方、報道によって推計に幅がある点に留意されたい。

出典:Tom’s Hardware「Chinese chipmaker CXMT allegedly used a written roadmap to steal Samsung DRAM tech」(2026年9月4日)/NoCut News 法廷資料報道(2026年9月)/DIGITIMES「CXMT’s ‘Hefei Project’ exposed in Samsung DRAM theft case」(2026年9月1日)/South China Morning Post(2026年9月)


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