結論:TrendForceは2026年10月8日、VCSEL(垂直共振器面発光レーザー)の需要が2031年に6億5,000万個へ達し、2025〜2031年の年平均成長率は38%になるとの予測を発表した。注目すべきは数字そのものより、その背景にある構造変化である。AIデータセンターの「スケールアップ網」で、1.6Tbps級の速度になると銅配線の信号損失が重くなり、短距離は光接続へ置き換わる流れが強まる。その受け皿として、VCSELを使うNPO(ニア・パッケージド・オプティクス)に6社が本腰を入れている。以下はいずれもTrendForceの予測・調査ベースの内容である。
何が発表されたのか
発表の元になったのは、TrendForceのレポート「2027 Infrared Sensing and Optical Communication Market Trend」である。VCSELは、これまでスマートフォンの3Dセンシングなど赤外線センシング用途のイメージが強い部品だった。今回の発表は、その用途の軸足が「データセンターの光通信」へ移りつつあることを示している。
TrendForceが示した主な数字は、2031年の需要6億5,000万個、2025〜2031年の年平均成長率38%、そして2027〜2028年に複数のVCSEL NPOソリューションが市場投入される見込み、という3点だ。投入時期が具体的に示されている点は、研究開発段階を抜け、製品化の段階に入りつつあることを意味する。
なぜ「銅から光」へ移るのか
AIの学習・推論では、多数のGPUやアクセラレータを高速に結ぶ「スケールアップ網」が性能を左右する。ここで1.6Tbps級の伝送を銅ケーブルで行うと、信号損失が大きくなる。現在のアクティブ電気ケーブル(AEC)は複数のリタイマーで損失を補っているが、TrendForceはこの方式が限界に近づき、AIスケールアップ網は短距離の光リンクへ向かうと見ている。
つまり、光化の動機は「速くしたい」だけではなく、「銅のままでは、補正部品が増えて電力もコストも膨らむ」という点にある。AI投資の拡大で、メモリや先端パッケージの逼迫が続いていることは、MicronがNVIDIA向けカスタムHBMのベースダイにTSMC 3nm級を使う動きやMicronのFQ4決算からも読み取れる。ボトルネックは演算やメモリに加え、「チップ間をどうつなぐか」へ広がっている。
6社の技術アプローチ:850nmと1,060nm
TrendForceによれば、参入企業の戦略は波長で大きく二つに分かれる。LumentumとFurukawa Electricは1,060nmのVCSELを採用する。コストは高いものの、ファイバーとの結合効率が高く、分散や相対強度雑音(RIN)が小さく、高温環境でも安定するという特長がある。Coherentも1,060nmを計画しているが、現時点では850nmで取り組んでいる。
一方、Coherent、Broadcom、ams OSRAM、HiSiliconは、成熟した850nmのVCSELとフォトダイオードを組み合わせ、合計で最大3.2Tbpsの帯域を実現する方向だ。ただし850nmは波長分散の制約があり、距離と帯域をさらに伸ばすには限界がある。ここに、「低コストで量産しやすい850nm」と「性能余力のある1,060nm」という分岐が生じている。
VCSEL NPOとMicro LED CPOの比較
もう一つの論点は、光を半導体パッケージのどこまで近づけるかである。TrendForceは、Micro LEDを使うCPO(コ・パッケージド・オプティクス)が、長期的にはビット当たりエネルギーの理論限界に近づける可能性があるとしつつ、巨大な数のチップを移載する工程、ファイバーとの互換性、結合効率といった課題があり、サプライチェーンも整っていないと指摘する。
これに対しVCSEL NPOは、電力効率、保守の柔軟性、サプライチェーンの成熟度で現実的であり、スケールアップ向けの光インターコネクトとして「今」競争力が高い選択肢だとTrendForceは位置づけている。今後は、1素子あたり100Gから200Gへの高速化、100〜200µmの小型マイクロVCSEL、多チャンネルアレイによる帯域拡大が焦点になる。
構造的に何が起きているか:日本の読者が見るべき点
第一に、AI半導体の競争が「チップ単体」から「チップ間接続を含むシステム全体」へ広がっていることだ。パッケージ周辺の光部品は、これまで主役ではなかった企業にも新たな需要を生む。部品メーカーにとっては、センシング用で培った量産ノウハウを通信用途へ転用できるかが勝負になる。
第二に、需給の逼迫が一部の製品にとどまらないことだ。TrendForceの4Q26 NAND契約価格予測やNanya・Winbondの9月売上に見られるように、メモリ市場ではAI由来の需要が周辺へ波及している。AIサーバー組み立ての側でも、Foxconnの7〜9月期売上が示すように拡大が続く。
第三に、製造能力の確保という論点である。TSMCの米テキサス新キャンパス計画やIntel 14Aの外部顧客協議のように、先端製造の投資と顧客獲得は引き続き重要で、光部品の台頭は、材料・化合物半導体・実装を含む裾野の広い再編の起点にもなり得る。M&Aや提携を検討する立場では、化合物半導体の製造能力と、パッケージ技術を持つ企業の組み合わせが、今後の注目点になるだろう。
なお、今回の数値と見通しはすべてTrendForceの予測であり、実際の採用はAI事業者の設計判断や量産歩留まりに左右される。TrendForceのリリースは、VCSEL NPOとシリコンフォトニクスやEMLとの比較には触れておらず、他方式との競合関係は別途確認が必要である。
出典:TrendForce「Six Leading Suppliers Bet on VCSEL NPO; VCSEL Demand Projected to Reach 650 Million Units by 2031, Says TrendForce」(2026年10月8日)/TrendForce プレスセンター https://www.trendforce.com/presscenter/news/20261008-13260.html
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