結論:Rapidusは2027年の2nm量産開始に向け、ウェハー1枚あたり300万〜350万円(約1万8,500〜2万1,500ドル)という「TSMCと同等かやや安い」価格を提示する方針だと報じられた(日経報道ベース)。同じ週にはTSMCがNVIDIA・Apple・AMDなど主要顧客に3nm〜7nmで5〜10%の値上げを通告したとの報道も出ており、先端ファウンドリ市場は「技術ロードマップの競争」から「価格決定権の争奪戦」へと局面が変わりつつある。後発のRapidusが技術ではなく価格を最初の武器に選んだこと自体が、この市場の構造変化を映している。
Rapidusの「同等かやや下」戦略の中身
日経の報道(TrendForce経由、2026年7月9日)によると、Rapidusの小池淳義社長は自社の2nmファウンドリサービスについて「TSMCと少なくとも同等か、わずかに下回る」価格を目指すと述べた。参考価格はウェハー1枚あたり300万〜350万円で、為替次第で変動する。現行レートで約1万8,500〜2万1,500ドルに相当する。
注目すべきは商談の進み方だ。Rapidusはすでに60社以上と協議を進めており、その過半が海外企業だと報じられている。さらに2029年には1.4nmの生産を視野に入れ、北海道・千歳の第2工場が将来の能力増強を担う計画だ。「まず国内顧客から」ではなく、最初からグローバルのAI・HPC需要を取りに行く姿勢が読み取れる。
2nm価格の勢力図:3万ドルのTSMCと2万ドルのSamsung
韓国Business Postの報道では、TSMCの2nmとIntelの18A(1.8nm級)はウェハー1枚あたり約3万ドル、Samsungの2nmは約2万ドルとされる。この報道が正しければ、Rapidusの参考価格はTSMC比で3〜4割安く、Samsungと同水準かやや下という位置づけになる。
つまり2nm世代の価格レンジは「3万ドル圏(TSMC・Intel)」と「2万ドル圏(Samsung・Rapidus)」の二層に分かれ始めている。前者は実績と歩留まりを背景にプレミアムを取り、後者は価格でシェアの突破口を探る。先端ノードの価格が公然と比較される状況そのものが、これまでTSMCの独壇場だった市場に選択肢が生まれつつあることを示す。
一方のTSMCは5〜10%値上げ:先端ノードは売り手市場
対照的に、TSMCは値上げに動いている。Chosun Bizが業界筋の話として報じたところでは、TSMCはNVIDIA・Apple・AMDを含む主要顧客に対し、3nm・5nmに加えて7nmでも5〜10%の値上げ方針を通知した。5月には「3nmは2026年下期に最大15%、2027年にさらに5〜10%」との報道もあり、値上げは単発ではなく複数年にわたる既定路線とみられる。
Samsungファウンドリも新規顧客向けに4nm・5nmと車載向け8nmの一部で約15%の値上げを進めていると報じられるが、こちらは需要の強い特定プロセスに絞った「価格正常化」の色彩が濃い。全面的に価格を引き上げられるのは、現状ではTSMCだけだ。AI需要で先端キャパシティが逼迫し、顧客が値上げを飲まざるを得ない売り手市場が続いている。
構造的に何が起きているか:価格決定権とセカンドソースの経済学
今回の一連の報道を並べると、構造は明快だ。TSMCは値上げできる側に立ち、追う側は価格を下げてでも顧客を取りに行く。ただしRapidusの300万〜350万円はあくまで「参考価格」であり、この水準で利益を出せるかは歩留まりと稼働率にかかっている。歩留まりが低ければ良品チップ1個あたりの実効コストは跳ね上がるため、名目のウェハー単価だけでは競争力を判断できない。
それでも顧客側に立てば、TSMCの連続値上げと台湾への地政学的集中はリスクそのものであり、価格が2〜3割安いセカンドソースが日本に立ち上がる意味は小さくない。60社超という商談数は、性能面でTSMCに並ぶ前から「保険」としての需要が存在することの証左といえる。Rapidusにとっての本当の関門は、2027年の量産初期に歩留まりを商用水準へ引き上げ、この価格を維持したまま供給責任を果たせるかどうかだ。
日本のサプライチェーンへの示唆
千歳で2nmファブが本格稼働すれば、恩恵は装置・材料・インフラの裾野に広がる。先端ファブはクライオポンプなどの真空プロセス機器、排ガス処理システム、クリーンルーム用フィルタといった周辺装置・消耗品を大量に必要とし、装置開発の上流ではマルチフィジックスシミュレーションの活用も広がる。また2nm世代ではチップ単体の微細化に加えて後工程の重要性が増しており、超低温・低荷重接合などの先端パッケージング技術を持つ国内企業や、ラインの停止を防ぐ半導体特化の緊急物流まで含めたエコシステム全体が競争力を左右する。Rapidusの価格戦略は、こうした国内サプライチェーンが世界水準のコスト構造で応えられるかを試すリトマス試験紙でもある。
出典:TrendForce「Japan’s Rapidus Takes on TSMC With Aggressive 2nm Pricing」(2026年7月9日)、日本経済新聞(2026年7月)、Chosun Biz(2026年7月9日)、Business Post(2026年7月)。価格・値上げ幅はいずれも報道ベースであり、各社の公式発表ではない。

コメント