結論:2026年9月18日、ドイツ・ミュンヘン第一地方裁判所が、中国YMTC(長江存儲)の3D NAND関連の実用新案2件についてMicronの侵害を認め、差止めを認めたと報じられています(TrendForce、Digitimes、ip fray等の報道ベース)。金額の大きな損害賠償ではなく「欧州向けの供給そのものを止め得る」差止めが認められた点が本質で、NAND特許戦争の主戦場が、米国の訴訟から「供給網の出口(販売地域)」へと移りつつある構造を映しています。
何が起きたのか:ドイツで2件の差止め
報道によると、対象となったのは3D NANDのステアケース(階段状)構造に関する実用新案DE202020006166U1と、ワード線コンタクトのバリア層に関するDE202021004551U1の2件です。いずれもドイツの実用新案で、他の実用新案2件と欧州特許1件は審理が続いているとされます。Micronは侵害を否定して控訴したと伝えられており、これは第一審の判断です。控訴審(ミュンヘン高等地方裁判所)が執行停止を認めない場合、ドイツ向けのMicron製NANDの販売に影響が及ぶ可能性があります。なお執行の条件や担保の詳細は、確認できた範囲の報道では明らかになっていません。
紛争の発端は2023年で、YMTCが米カリフォルニアでMicronを提訴したことに始まり、現在は中国・米国・英国・ドイツ・欧州にまたがり20件超の特許が争点になっていると報じられています。うち7件はすでに無効とされたとも伝えられ、Micronは各国で特許の有効性も同時に争っています。
ここで押さえたいのは、ステアケース構造やバリア層といった対象技術が、いずれも積層数を増やす3D NANDの根幹に関わる点です。積層が200層台へ進むほど、階段状のコンタクト形成や配線抵抗の管理は歩留まりとコストを左右します。つまり係争の対象は周辺技術ではなく、製造工程の要所にあたります。特許の数そのものより、どの工程の権利を押さえているかが交渉力を決めます。
構造的に何が起きているのか:「訴訟」から「販売差止め」へ
この事案で重要なのは、勝敗よりも「どこで戦うか」の変化です。YMTCは米国の輸出規制で先端装置の調達に制約を受けており、生産面では自由に規模を伸ばせません。一方で特許は、欧州のように権利者に比較的有利とされる法域で、相手の販売を直接制約できる数少ない交渉カードになります。差止めは判決そのものより、和解・クロスライセンス交渉における「レバレッジ」として機能するのが通例です。
中国メモリの動きは訴訟だけではありません。当サイトでも、CXMTがNAND、YMTCがDRAMへ相互に参入する動きを取り上げました。DRAMとNANDの垣根が中国勢の側から崩れつつあるなか、知財は「参入の入場券」であり「相手への防壁」でもあります。特許戦争は、技術競争がそのまま通商・産業政策の道具に転化する局面の一部と見るべきでしょう。
Micron側の事情:供給を絞る局面での法的リスク
Micronは現在、収益性の低い製品から撤退して資源をAI向けに寄せています。GDDR7 2GB品の生産終了もその一例で、メモリ産業が「高付加価値領域への集中」を進めていることを示します。こうした選択と集中のもとでは、欧州のような一市場の販売制約も、顧客との長期契約や在庫配分に波及し得ます。ただし、実際の影響規模(欧州向けNAND売上の比率や代替供給の余地)は、現時点の報道からは特定できません。
また、AI需要がシリコンウエハーの価格上昇を招くなど、メモリを取り巻くコスト環境は厳しさを増しています。原価が上がる局面で販売地域が制約されれば、価格転嫁の余地も狭まります。地政学の面でも、NVIDIA H200の対中輸出をめぐる「許可されたのに届かない」問題や、HuaweiのEUV規制迂回の報道に見られるように、半導体は法的・政治的な制約が供給を左右する時代に入っています。
今後の見どころと実務への示唆
注目点は三つあります。第一に、控訴審が執行停止を認めるか。第二に、審理中の残り3件(実用新案2件と欧州特許)の判断です。第三に、米国での訴訟再開の動きで、YMTCは9月に係属中の侵害訴訟の停止解除を求めたと報じられています。これらが揃えば、和解(クロスライセンス)に向けた交渉が動く可能性がありますが、確定的な見通しではありません。
実務面では、メモリ・SSD・組込み機器の調達側は、供給元のNANDに知財リスクが存在し得ることを、契約条項(供給責任・代替調達)の観点から見直す価値があります。M&Aや投資の観点でも、中国メモリ企業や関連装置・材料企業の評価では、特許ポートフォリオと係争の帰結が企業価値に直結し得ます。先端実装の主流が移るCoWoS-Lの動向と合わせ、供給網全体の「詰まりどころ」を点検することが重要です。
出典:TrendForce「German Court Reportedly Finds Micron Infringed Two YMTC NAND Patents, Grants Injunctions」(2026年9月23日)/Digitimes(2026年9月23日)/ip fray(2026年9月)/Tom’s Hardware(2026年9月)。裁判所の判断内容・控訴状況は上記報道ベースであり、公式判決文は未確認です。
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