結論:米メモリ大手のMicron(マイクロン・テクノロジー)が6月24日(米国時間)に発表した2026会計年度第3四半期(3〜5月期)決算は、売上高415億ドル(約6兆円超)と前年同期の93億ドルから約4.5倍に急増し、四半期として過去最高を更新した。さらに次の第4四半期に売上高500億ドルという強気の見通しを示したことで、市場は「AI時代の主役はGPUだけでなく、それを支えるメモリそのものへ移りつつある」という構造変化を改めて突きつけられた。かつて値崩れと過剰在庫に苦しんだ汎用品(コモディティ)の代名詞であるメモリが、いまやNVIDIA級の収益性を叩き出している。本稿では、この決算が半導体産業の「利益分配の地図」をどう描き替えているのかを読み解く。
決算の数字|メモリらしからぬ「異常な収益性」
まず数字を押さえておく。売上高は415.6億ドルで、前四半期の238.6億ドル、前年同期の93.0億ドルを大きく上回った。GAAPベースの純利益は282.4億ドル、希薄化後EPSは24.67ドル、非GAAPでは25.11ドルと、事前のアナリスト予想(おおむね20ドル前後)を2割以上上回る大幅な上振れとなった。注目すべきはGAAP粗利益率84.6%、営業キャッシュフロー253.9億ドルという水準だ。メモリは本来、需給次第で粗利率が一桁台まで沈むこともある景気敏感ビジネスである。その産業で粗利率が80%を超えるという事実こそ、いま起きていることの「異常さ」を最も雄弁に物語っている。配当も1株0.15ドルを継続し、四半期末の手元資金は302億ドルに積み上がった。
なぜここまで伸びたか|HBMが生む“売り切れ”の構造
急拡大の主役は、AIアクセラレータに不可欠な広帯域メモリ(HBM)だ。Micronは2026暦年のHBM生産枠を年内のうちに完売(フルアロケーション)済みで、すでに需要が供給を上回る「売り手市場」に入っている。さらに次世代のHBM4は、NVIDIAの次期プラットフォーム「Vera Rubin」向けに量産出荷が始まり、歩留まりの立ち上がりも前世代のHBM3Eより速いという。ここで起きているのは、単なる増産ではなく「メモリの価格決定権がメーカー側に移った」という構造転換である。AI向けに最先端メモリを優先的に振り向けた結果、汎用DRAMやNAND側にしわ寄せが及び、価格が押し上げられている点はDRAM価格とHBMシフトの構造でも整理したとおりだ。供給逼迫は最先端品にとどまらず、レガシーメモリの「100%超」高騰という“玉突き不足”まで生んでいる。
来期ガイダンス500億ドルの意味|まだ天井が見えない
市場をさらに驚かせたのは、第4四半期の見通しだ。売上高500億ドル(±10億ドル)、粗利益率は約86%と、従来のアナリスト予想(380〜400億ドル前後)を一気に1割以上上回る「ビート&レイズ」となった。一四半期で500億ドル(約7兆円超)という規模は、メモリ専業メーカーの常識を完全に逸脱している。発表後、株価は時間外で1割超上昇したと報じられており(報道ベース)、投資家は「HBMスーパーサイクルはまだ過熱の途中で、天井はまだ見えていない」と受け止めた格好だ。設備投資は当四半期だけで71億ドルに達しており、需要に応えるための増産投資も加速している。つまりMicronの決算は、AIインフラ投資が一段落するどころか、メモリ側のボトルネックがむしろ深まっていることを示している。
競合と日本への波及|Samsung・SK hynix、そして装置産業
この恩恵を受けるのはMicronだけではない。HBM市場は実質的にMicron・SK hynix・Samsungの三社による寡占であり、三社そろって記録的な収益局面に入っている。HBM4以降はベースダイ(土台となるロジックチップ)の製造をTSMCに委託する動きが進み、メモリと先端ロジックの境界も溶け始めた。需要拡大の最上流に位置するのが露光装置のASMLであり、三社の増産競争が続く限り装置・検査・後工程まで広く波及する。日本勢にとっても、検査装置や成膜・実装の領域は無関係ではなく、テスタ・前工程装置の動向を通じて恩恵が及ぶ構図だ。AIメモリの過熱が産業全体の需給をどう塗り替えるかは、中長期の市場予測と併せて見ておきたい。
リスク|どこで構造が崩れるか
もっとも、この高収益が永遠に続く保証はない。第一に、71億ドル規模の設備投資が示すとおり、三社の増産競争が行き過ぎれば、いずれ供給が需要を追い越し、メモリ特有の価格急落(ダウンサイクル)が再来するリスクがある。第二に、好業績の前提はハイパースケーラーによるAI投資の継続であり、その投資ペースが鈍れば、いまの「売り切れ」構造は一気に緩む。第三に、競争はスペックから「認定タイミング」へと移っており、HBM4・HBM4Eで誰がNVIDIAの認定を先に取るかが各社のシェアを左右する。Micronの決算は紛れもなく歴史的だが、それは同時に、半導体産業の利益が一部のAIメモリに極端に集中している“偏り”の裏返しでもある。この集中がいつ、どの方向に揺り戻すのか——そこにこそ次の論点がある。
出典:Micron Technology「Reports Record Results for the Third Quarter of Fiscal 2026」(プレスリリース、2026年6月24日)、Reuters、StockTitan(いずれも2026年6月24日付報道)。本文中の第4四半期見通し・株価反応は発表資料および各種報道に基づく。
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