結論:AI需要の波は、GPUやHBMだけでなく、電源管理IC・MOSFET・MCUといった「地味な」成熟ノード系の半導体にまで価格上昇を広げている。報道ベースでは、Texas Instruments(TI)、onsemi、ルネサスが相次いで価格改定に動き、主要なパワー半導体の納期は従来の8〜12週から30週超へ伸びたとされる。構造的に起きているのは、先端ノードを優先するファウンドリが成熟ノードの能力を絞る「供給側の変化」と、AIサーバーの電力設計が変わる「需要側の変化」が同時に進んでいることだ。
何が起きたのか:成熟ノードとパワー半導体で値上げが連鎖
2026年9月21日付(9月28日更新)のBiGGo Financeの報道によれば、8インチの成熟ノードファウンドリの平均価格は2026年の第1〜第2四半期に5〜15%上昇し、12インチの一部プロセスも第2〜第3四半期に5〜10%上昇した。Powerchip(力積電)については、一部製品で最大40%の値上げが取り沙汰されているが、これは市場の噂の段階であり、確定情報ではない。
製品側でも動きが出ている。TIは2026年7月1日から全製品群で価格を改定し、onsemiは10月10日から一部製品を値上げした。ルネサスは2026年に入って2回目となる改定を2027年1月1日付で実施すると報じられている。台湾のパワー半導体メーカー(Panjit、TSCなど)も、契約外の製品で10〜15%の値上げを10月に実施するとされる。UMCは、2027年の値上げ幅が2026年後半を上回るとの見方を示している。
なぜ成熟ノードが足りなくなったのか
背景にあるのは、供給側の能力縮小だ。報道によれば、TSMCは成熟ノードの能力を段階的に絞り、Samsung Electronicsも生産を削減したため、注文が残るファウンドリに集中している。TrendForceは、8インチの稼働率が2026年に88%まで回復し、下期には90%に達すると見ており、UMCも稼働率が90%を超えていると伝えられる。
TrendForceが2026年10月5日に公表したFoundry Market Bulletinでも、TSMCが成熟ノードからの撤退を先送りしつつ、能力の一部をCoWoS用インターポーザやシリコンフォトニクス(SiPh)に振り向けているとの整理が示された。UMCは8インチの微細プロセスがほぼ満杯で値上げを支え、Vanguardは値上げの姿勢を示しつつAI向け電源製品を優先してQualcomm向けの割当を減らしている。当サイトでも、TrendForceが8インチ供給の逼迫でファウンドリ値上げを指摘した件を取り上げたが、今回の論点はその「出口」にあたる、完成品としてのパワー半導体の価格と納期である。
AIサーバーが電源半導体の需要を押し上げる構造
需要側の変化は、AIラックの電力設計にある。報道では、AIラックが800V高電圧DC給電へ移行しつつあり、SiC・GaN、高効率MOSFET、保護素子の需要が高まるとされる。GPUの演算性能が上がるほど、電力を安定して変換・分配する半導体の数と品質が問われ、これまで景気循環で価格が下がりやすかった領域が、AI投資の「周辺需要」として構造的に強くなっている。
これは、メモリで起きている構造とも重なる。4Q26の汎用DRAM契約価格や2027年のHBM平均単価に関するTrendForceの見通しが示すとおり、AI向けの需要が優先されるほど、汎用品の供給が細る。MicronのFQ4決算やNVIDIA向けカスタムHBMの動きに見られる先端領域の強さは、成熟ノードの逼迫という形で、サプライチェーンの別の場所にも影響を及ぼしている。
今後の見方:価格転嫁が続く条件と留意点
TrendForceは、成熟ノードの価格上昇の勢いが2027年まで続くと見ており、今回の回復を短期的な在庫補充ではなく構造的なものと位置づけている。また、TSMCが2027年1月から価格を3〜6%引き上げるとの報道もあるが、同社は公式には発表しておらず、先端ノード中心の改定とみられる(詳細はTSMCの7〜9月期売上に関する記事も参照)。
M&Aや投資の視点では、次の3点が論点になる。第一に、成熟ノードと特殊プロセスの能力を持つ企業は、稼働率の高さと価格決定力の面で再評価されうる。第二に、パワー半導体メーカーは価格転嫁が進む一方、原材料・エネルギー・物流コストの上昇も大きく、利益率の改善は製品構成次第である。第三に、納期が30週超に伸びる状況では、顧客側の在庫積み増しが需要を実態以上に見せる可能性があり、2027年以降の反動には注意が要る。なお、本稿の数値の多くは報道・市場の見方に基づくもので、各社の公式発表で確認できていない項目は、今後の決算や公式資料で検証する必要がある。
出典
・BiGGo Finance「AI Sparks Mature-Node Shortage: UMC Signals Steeper Price Hikes Next Year, Powerchip Rumored to Raise Quotes 40%」(2026年9月21日付、9月28日更新)
・BiGGo Finance「TSMC reportedly to raise foundry prices 3%-6% from January 2027」(2026年9月23日付)
・TrendForce「Foundry Market Bulletin – Oct. 5, 2026」(2026年10月5日)
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