結論:半導体におけるキャリアとは、電流を運ぶ移動可能な電荷の担い手である。主なキャリアは伝導帯の電子と価電子帯の正孔であり、n型半導体では電子、p型半導体では正孔が多数キャリアになる。キャリア濃度と移動度が、抵抗率、電流、スイッチング速度、漏れ電流を左右する。
キャリアとは
キャリア(Carrier)とは、物質の中で電荷を運び、電流を発生させる粒子または準粒子を指す。半導体では、主に次の2種類がある。
- 電子:負の電荷を持ち、伝導帯を移動する
- 正孔:価電子帯で電子が抜けた空席を、正の電荷を持つ粒子のように扱ったもの
電子がキャリアになる仕組み
価電子帯にある電子は、通常は原子間結合に関与しており、自由に移動しにくい。熱、光、電界などから十分なエネルギーを受け取ると、電子はバンドギャップを越えて伝導帯へ移る。
伝導帯に移った電子は、電界を加えることで材料中を移動し、電流を運ぶキャリアになる。
正孔とは
電子が価電子帯から抜けると、その場所に空席が生じる。隣の電子がその空席へ移動すると、空席が反対方向へ動いたように見える。
この空席を、正の電荷を持つ粒子として扱ったものが正孔である。正孔は実体のある粒子ではないが、半導体の電気伝導を考えるうえで非常に有効な概念である。
真性半導体のキャリア
高純度で不純物をほとんど含まない半導体を真性半導体という。真性半導体では、熱励起によって電子と正孔が対で生成されるため、電子濃度と正孔濃度は等しくなる。
ただし室温のシリコンでは真性キャリア濃度は比較的低く、実用デバイスではドーピングによってキャリア濃度を制御する。
n型半導体のキャリア
シリコンへリンやヒ素などのドナー不純物を導入すると、結合に使われない余分な電子が生じる。この電子が伝導帯へ移動しやすいため、電子が多数キャリアとなる。
- 多数キャリア:電子
- 少数キャリア:正孔
p型半導体のキャリア
シリコンへボロンなどのアクセプタ不純物を導入すると、共有結合を完成させる電子が不足し、正孔が生じる。そのため正孔が多数キャリアとなる。
- 多数キャリア:正孔
- 少数キャリア:電子
ボロン濃度とp型シリコンの抵抗率の関係は、シリコンにおけるボロンドーピングと電気抵抗率の関係で解説している。
多数キャリアと少数キャリア
| 半導体 | 多数キャリア | 少数キャリア | フェルミ準位 |
|---|---|---|---|
| n型 | 電子 | 正孔 | 伝導帯側 |
| p型 | 正孔 | 電子 | 価電子帯側 |
フェルミ準位との関係は、フェルミ準位とはで詳しく説明している。
キャリア濃度とは
単位体積あたりに存在する電子または正孔の数をキャリア濃度という。一般にcm-3で表される。
キャリア濃度が高いほど電流は流れやすくなる。ただし、ドーピング濃度を高くしすぎると不純物散乱が増え、キャリア移動度が低下するため、単純に濃度だけを増やせばよいわけではない。
移動度とは
移動度は、電界を加えたときにキャリアがどれだけ速く移動できるかを示す物性値である。移動度が高いほど、同じ電界で大きな電流を流しやすい。
移動度は、次の要因で変化する。
- 材料の結晶構造
- 温度
- ドーピング濃度
- 格子欠陥
- 界面粗さ
- 電界強度
キャリアと抵抗率の関係
半導体の導電率は、電子濃度、正孔濃度、それぞれの移動度によって決まる。キャリア濃度または移動度が高いほど、一般に抵抗率は低くなる。
この関係を利用して、イオン注入や拡散によってドーパント濃度を調整し、トランジスタのソース、ドレイン、ウェル、チャネルなどの電気特性を作り分ける。
キャリアの生成と再結合
電子が価電子帯から伝導帯へ励起されると、電子と正孔のペアが生成される。逆に、伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ちると、電子と正孔は消滅する。これを再結合という。
生成と再結合のバランスは、ダイオード、トランジスタ、LED、太陽電池、イメージセンサーなどの動作に影響する。
キャリア寿命とは
生成された少数キャリアが再結合するまでの平均時間をキャリア寿命という。キャリア寿命が長いほど、少数キャリアはより遠くまで移動できる。
パワーデバイスや光デバイスでは重要な特性だが、用途によって長い寿命が有利な場合と、短い寿命が高速動作に有利な場合がある。
キャリアとMOSFET
MOSFETは、ゲート電圧によって半導体表面のキャリア濃度を変化させ、電流を制御するデバイスである。
nMOSでは電子がチャネル電流を運び、pMOSでは正孔がチャネル電流を運ぶ。先端ロジックでは、GAAなどの構造を使い、ゲートがチャネルをより強く囲むことでキャリアを精密に制御する。
キャリアと温度
温度が上昇すると、熱励起によってキャリア数は増加する一方、格子振動が増えて移動度は低下する。半導体の電気特性は、この2つの効果のバランスで決まる。
高温環境では真性キャリアが急増し、漏れ電流や誤動作が起きやすくなる。ワイドバンドギャップ材料が高温動作に強いのは、熱励起によるキャリア生成を抑えやすいためである。
キャリアが半導体の中心概念である理由
半導体デバイスは、電子と正孔を「どこに、どれだけ、どの速さで動かすか」を設計する技術である。ドーピング、pn接合、MOS構造、量子井戸、ヘテロ接合などは、すべてキャリア制御のための仕組みといえる。
キャリアを理解することは、抵抗率、ダイオード、MOSFET、メモリ、パワー半導体、光半導体を理解する共通の出発点になる。

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