結論:バンドギャップとは、電子が存在する価電子帯と、電流を運べる伝導帯との間にあるエネルギー差である。バンドギャップの大きさによって、材料が導体・半導体・絶縁体のどれに近い性質を持つかが決まり、耐圧、漏れ電流、動作温度、発光波長などにも大きな影響を与える。
バンドギャップとは
バンドギャップ(Band Gap)は、固体中の電子が取り得るエネルギー帯の間に存在する、電子が通常存在できないエネルギー領域である。単位には電子ボルト(eV)が使われる。
半導体物理では、主に次の2つのエネルギーバンドを考える。
- 価電子帯:原子同士の結合に関与する電子が存在する領域
- 伝導帯:電子が材料中を移動し、電流を運べる領域
価電子帯の上端から伝導帯の下端までのエネルギー差がバンドギャップである。
バンドギャップと電気の流れやすさ
電子が価電子帯から伝導帯へ移ると、自由に移動できる電子と、その抜けた跡である正孔が生まれる。これらがキャリアとして電流を運ぶ。
バンドギャップが小さいほど電子は伝導帯へ移りやすく、電気が流れやすい。バンドギャップが大きいほど、電子を励起するために大きなエネルギーが必要になる。
導体・半導体・絶縁体のバンド構造
| 分類 | バンドギャップ | 電気的性質 |
|---|---|---|
| 導体 | 実質的に存在しない、またはバンドが重なる | 常温で電流が流れやすい |
| 半導体 | 比較的小さい | 温度・光・ドーピングで導電性を制御できる |
| 絶縁体 | 大きい | 通常は電流がほとんど流れない |
代表的な半導体材料のバンドギャップ
| 材料 | おおよそのバンドギャップ | 特徴 |
|---|---|---|
| ゲルマニウム(Ge) | 約0.66eV | 高い移動度を持つが漏れ電流が増えやすい |
| シリコン(Si) | 約1.12eV | 集積回路の標準材料 |
| ガリウムヒ素(GaAs) | 約1.42eV | 高速・高周波・光デバイスに適する |
| 炭化ケイ素(4H-SiC) | 約3.26eV | 高耐圧・高温動作に強い |
| 窒化ガリウム(GaN) | 約3.4eV | 高周波・高効率スイッチングに適する |
SiCとGaNはシリコンより大きなバンドギャップを持つため、ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれる。詳しくは、SiCとGaNは何を変えるのかも参照してほしい。
ワイドバンドギャップ半導体の利点
バンドギャップが大きい材料は、熱によって電子が勝手に励起されにくい。そのため、高温でも漏れ電流を抑えやすく、強い電界にも耐えやすい。
- 高耐圧化しやすい
- 高温動作に適する
- 漏れ電流を抑えやすい
- 高周波スイッチングに適する
- 電力変換損失を低減しやすい
この特徴から、SiCはEVのインバータや急速充電器、GaNは小型充電器、通信基地局、データセンター電源などで利用が広がっている。
バンドギャップと温度の関係
多くの半導体材料では、温度が上昇するとバンドギャップはわずかに小さくなる。同時に、熱エネルギーによって価電子帯から伝導帯へ励起される電子が増えるため、真性キャリア濃度が増加する。
シリコンデバイスの高温動作で漏れ電流が増える理由の一つが、このキャリア増加である。
バンドギャップと光の関係
光子のエネルギーがバンドギャップ以上になると、価電子帯の電子が伝導帯へ励起される。この現象は、フォトダイオード、イメージセンサー、太陽電池などの動作原理に使われる。
逆に、伝導帯の電子と価電子帯の正孔が再結合すると、エネルギーが光として放出される場合がある。LEDや半導体レーザーは、この発光現象を利用する。
直接遷移型と間接遷移型
バンドギャップには、電子が光だけで遷移しやすい直接遷移型と、格子振動の助けを必要とする間接遷移型がある。
- 直接遷移型:GaAs、GaNなど。発光デバイスに適する
- 間接遷移型:Si、Ge、SiCなど。一般に発光効率は低い
ドーピングでバンドギャップは変わるのか
通常のドーピングでは、材料本来のバンドギャップそのものを大きく変えるというより、禁制帯内にドナー準位やアクセプタ準位を形成し、フェルミ準位とキャリア濃度を変化させる。
半導体の導電性を制御する具体的な工程は、イオン注入とはで解説している。
バンドギャップがデバイス設計を左右する理由
バンドギャップは、単なる材料データではない。耐圧、オン抵抗、漏れ電流、温度特性、光応答、発光波長といったデバイス特性の出発点になる。
ロジック半導体ではシリコンの製造成熟度が圧倒的だが、パワー半導体や光半導体では、用途に応じてSiC、GaN、GaAsなど異なるバンドギャップ材料が選ばれる。

コメント