結論:中国CXMT(長鑫存儲)の2026年4〜6月期の営業利益率は82%となり、SK hynixの76%、Samsung電子の70%を上回った(日本経済新聞によるメモリ6社の決算分析、9月11日報道)。ただしこれは「中国が技術で韓国を追い抜いた」話ではない。韓国勢がHBMに生産能力を振り向けた結果、汎用DRAM(DDR5)の供給が絞られて価格が急騰し、その値上がり分をほぼ丸ごと受け取ったのがCXMTだった、という供給配分の構造の話である。今回の数字はCXMTの技術力ではなく、「韓国勢が空けた席の大きさ」を測る指標として読むべきだ。
1|何が起きたか──メモリ6社比較で中国勢が利益率首位に
日経はSamsung電子・SK hynix(韓国)、Micron・SanDisk(米国)、キオクシア(日本)、CXMT(中国)の4〜6月期決算を比較し、CXMTの営業利益率が82%で最も高かったと分析した。CXMTの同四半期の営業利益は約1.9兆円(約16兆5,700億ウォン)で、前年同期の290億円の赤字から一気に反転している。利益率だけでなく、営業利益の絶対額でもすでにキオクシアとSanDiskを上回った水準だ。
- CXMT:営業利益率82%/営業利益 約1.9兆円(前年同期は290億円の赤字)
- SK hynix:76%
- Samsung電子:70%
- 主要顧客:Alibaba、ByteDance、Tencent など中国大手テック
CXMTがここに至るまでの製造面の経緯については、CXMT「合肥プロジェクト」が法廷で露出──620工程のレシピが中国DRAMシェア10%を作ったで扱った量産レシピの蓄積が背景にある。
2|なぜHBMより汎用DRAMのほうが儲かったのか
直感に反するが、2026年前半のメモリ市場ではHBMの収益性が汎用DDR5を下回っていた。台湾TrendForceは1〜3月期以降その逆転が起きていると指摘している。理由は単純で、HBMはTSV・積層・選別を伴うため工程コストと歩留まりロスが重く、かつ価格が年間ベースの供給契約で固定されやすい。一方の汎用DRAMは需給がそのまま価格に跳ね返る。
ユジン投資証券の試算では、Samsung電子のHBM平均販売価格は今年1Gbあたり1.61ドルで、汎用DRAMの1.82ドルを下回る。ところがHBM4の出荷が立ち上がる来年には3.52ドルとなり、汎用DRAMの2.36ドルを明確に上回る見通しだという。つまり2026年前半は、HBM3EからHBM4へ移行する「端境期」の谷にあたる。CXMTはその谷に、韓国勢が自ら空けた汎用市場で滑り込んだ。
3|シェアと能力はどう動いたか
Counterpoint Researchによれば、CXMTの4〜6月期のDRAM売上シェアは10%で、四半期ベースで初の二桁。2023年時点では1%未満、前年同期は4%だった。対してSK hynixは25%で前年同期比14ポイント低下し、両社の差は35ポイントから15ポイントに縮んだ。Samsung電子は38%で首位を維持、Micronは24%でSK hynixに肉薄している。
能力面では、CXMTのDRAM生産能力は現状で月産約30万枚、業界では2028年までに最大60万枚まで拡大するとみられている。SK hynixの現行能力(約59万枚)に並ぶ規模だ。製品面でもXiaomiと組んでLPDDR6の供給を開始し、HBM3Eについては報道ベースながらAlibaba傘下T-HeadやCambricon向けに少量サンプル出荷が始まったとされる。一方でSK hynixはHBMで50%のシェアを維持しており、「汎用は中国、先端は韓国」という棲み分けが一時的に利益率を逆転させたのが今回の構図である。
4|構造的に何が起きているか──利益率は勝敗表ではない
82%という数字は、CXMTの強さと同じくらいメモリ市況のピーク性を示している。中国勢の利益率が突出する条件は三つ重なっている。①償却負担の軽い旧世代・成熟ラインが中心であること、②国策資金とIPOによる調達で資本コストが実質的に低いこと、③韓国勢の撤退で価格が急騰した領域に集中していること。いずれも構造的な優位というより、局面依存の要因だ。
逆に韓国勢の利益率低下は「負け」ではなく、意図的なポートフォリオ転換の途中経過と読むほうが正確だろう。HBM4でASPが逆転すれば、利益率の順位はふたたび入れ替わる可能性が高い。むしろ注視すべきは利益率ではなく能力の絶対量と、それを支えるインフラ制約である。電力については韓国電力がSamsungとSK hynixに電気代25兆ウォンの前払いを要請した件が象徴的で、露光・マスク側の制約はASMLの12インチマスク規格にIntel・TSMC・Samsungが合流した動きに表れている。前工程の勝敗は、もはやウェーハ以外のボトルネックで決まりつつある。
5|M&A・投資の視点でどこを見るべきか
この局面をデューデリジェンスの観点に落とすと、見るべき項目は「単年の利益率」ではない。
- 償却済みライン比率:高利益率が資産の古さに由来していないか
- 顧客集中度:Alibaba・ByteDance・Tencentへの依存は、中国内需の景気とそのまま連動する
- 輸出規制エクスポージャー:装置・EDA・材料の調達経路がどこまで代替可能か
- 製品ミックスの移行余地:汎用DRAMからLPDDR・HBMへ実際に移れるかは、テスタ・積層設備の確保次第
日本側では、汎用DRAM価格の上昇は装置・材料メーカーの受注環境にプラスに働く一方、国内のメモリ雇用・立地の動きも並行して見ておきたい。キオクシア関連の求人・転職情報やキオクシア岩手(北上市)、Rapidus(北海道千歳)の採用動向は、各社が実際にどの工程に人を張っているかを映す先行指標になる。業界全体の職種構造は半導体工場の求人ガイドにまとめている。
要するに、今回のニュースの読みどころは「中国が勝った」ではなく、先端品への集中が汎用品に価格の空白を生み、その空白が後発の利益率を押し上げるという、メモリ産業に固有のフィードバック構造が数字で可視化されたことにある。HBM4の量産が本格化する来年、この構造がどう巻き戻るかが次の観測点だ。
出典:Seoul Economic Daily「China’s CXMT Tops SK hynix in Memory Profit Margin」2026年9月11日(日本経済新聞の分析を引用)/Seoul Economic Daily「CXMT Hits 10% DRAM Share, Pushing Korea Toward HBM4」2026年9月4日(Counterpoint Research、ユジン投資証券、TrendForceのデータを引用)。HBM3Eのサンプル出荷など一部の事実関係は報道ベースであり、各社の公式発表による確認は取れていない。
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