結論:サムスン電子とSK hynixの2026年上期(1〜6月)半導体設備投資が合計43兆1,980億ウォン、前年同期比35.1%増に達し、両社のメモリラインは稼働率100%で張り付いた。だが本当に読むべきは投資額ではない。SK hynixのNVIDIA向け売上比率が2025年通期の24%から上期13.35%へ低下し、サムスンの主要顧客リストからNVIDIAが消えたという「顧客構成の変化」である。AIメモリの需要主体が、GPU一社からハイパースケーラーの自社ASICへと静かに分散し始めている。(いずれも報道ベース・半期報告書開示に基づく)
まず数字を確認する──上期43兆ウォン、R&Dはほぼ倍増
TrendForceが2026年8月17日に報じた内容(韓国Etodayおよび両社が8月14日に金融監督院DARTへ提出した2026年半期報告書を引用)を整理すると、以下のようになる。
- 両社合計の半導体設備投資:43兆1,980億ウォン(前年同期31兆9,751億ウォン、+35.1%)
- サムスン電子DS部門:25兆6,030億ウォン(+23.5%)
- SK hynix:17兆5,950億ウォン(+56.4%)
- サムスン電子 全社R&D費:27兆3,630億ウォン(+51.5%、半期として過去最高)
- SK hynix R&D費:6兆430億ウォン(+98.4%、2025年通期のおよそ9割を半年で消化)
目を引くのは伸び率の差である。SK hynixの設備投資増加率はサムスンDS部門の2倍以上、R&Dに至ってはほぼ倍増している。規模ではサムスンが依然として上だが、変化の速度ではSK hynixが上回る。これは、SK hynixが8月7日に取締役会で決議した54兆ウォン規模の新工場計画(龍仁Y2のDRAM棟に35兆2,000億ウォン、清州M17のNAND棟に19兆1,000億ウォン)とも整合する動きだ(参考:SK hynixが総額54兆ウォンの新工場投資を決定)。
「稼働率100%」は好調のサインではなく、制約のサインである
報道によれば、上期のサムスンDSメモリラインとSK hynixはいずれも稼働率100%を記録した。数字だけ見れば絶好調だが、構造的にはこれは「増産という手段を失った状態」を意味する。稼働率が100%に達すれば、需給の調整弁は数量ではなく価格しか残らない。
実際、DDR5価格は地域によって前年比5倍近い水準まで上昇したと報じられ、この現象は一過性ではなく構造問題として定着しつつある(参考:「チップフレーション」は構造問題へ)。TrendForceは2026年7月30日のプレスリリースで、2027年もDRAM供給はタイトなまま、NAND Flashは緩和するという「二極化」の見通しを示している。新工場を今から建てても、装置搬入と立ち上げを考えれば実質的な供給貢献は2027年後半以降にずれ込むためだ。
つまり43兆ウォンは「今年の需要に応える投資」ではなく、2028年の需給を取りに行く投資である。この時間軸のズレを投資判断で見落としてはならない(参考:サムスン・ファウンドリ、下期に稼働率100%へ)。
R&D費ほぼ倍増が示すのは「HBM4は作れるかどうかの勝負」ということ
SK hynixのR&D費が半年で前年比98.4%増、つまりほぼ倍になったという事実は、HBM4世代の技術的難易度を素直に反映している。HBM4ではベースダイがロジックプロセスで作られるようになり、メモリメーカー単独では完結せずファウンドリ工程との結合が必要になる。DRAMの微細化とロジックの設計・製造、そして先端パッケージングの三つを同時に回さなければならない。
この構造変化は、メモリ産業の競争軸を「セルをどれだけ小さく作れるか」から「異種チップをどう束ねるか」へ移している。サムスンがHBM4の歩留まりで巻き返しを図り(参考:サムスンHBM4歩留まり80%到達)、インターポーザを介さない実装方式の提案が相次いでいるのも同じ文脈だ。R&D費の急増は好況の証ではなく、勝ち残るための必要コストが跳ね上がったことの証左である。
顧客構成の変化──NVIDIA一社依存の終わりの始まり
今回の半期報告書でもっとも構造的に重要なのは、投資額ではなく顧客構成である。ソウル経済新聞の報道によれば、SK hynixの上期NVIDIA向け売上は17兆6,087億ウォンで、総売上の13.35%。2025年通期のNVIDIA比率が24%だったことを踏まえると、比率はほぼ半減している。同紙はこの低下を、自社AIチップ(ASIC)を開発するビッグテックへの顧客分散によるものと分析している。
さらに象徴的なのがサムスン側だ。上期の主要顧客5社はAlphabet、Amazon、Apple、香港Techtronics、Supreme Electronicsで、合計しておよそ売上の25%。長らく交渉が注目されてきたNVIDIAは、このリストに入っていない。HBM供給での協業は引き続き焦点だが、現時点の実売上ベースではクラウド事業者3社のほうが重いということになる。
ただし慎重に読む必要がある。比率低下は総売上が急拡大した分母効果とASIC向け出荷増の分子効果の両方を含み、NVIDIAとの取引額自体が減ったわけではない。下期はHBM4本格供給とVera Rubin立ち上がりで比率が反発する可能性も指摘される。それでも、ハイパースケーラーの自社チップがメモリ生産枠を実際に奪い始めた事実は動かない(参考:Microsoft「Maia 300」を今秋発表へ)。
M&A・投資の視点──価値はどこへ移るのか
ここまでの構造を、投資・M&Aの実務目線で三点に整理したい。
- メモリ企業の評価軸が「シェア」から「顧客ポートフォリオの質」へ移る。NVIDIA一社への依存度が高い構造は、AIアクセラレータの勢力図が変われば一気に脆くなる。逆に、ASIC顧客を複数抱える構造は稼働の安定性という点で再評価されうる。
- 投資マネーは前工程から後工程・部材・装置へ波及する。稼働率100%で増産余地がない以上、短期の伸びしろはHBMの積層・接合・検査といった後工程側に集まる。ここは日本企業の存在感が残る領域でもあり、中堅企業のM&A案件が動きやすい。
- 「2027年の供給枠を取れない側」の代替戦略が新しい市場を作る。DRAM・HBMの2027年キャパシティはすでに主要3社で割り当てが埋まったと報じられている。枠を取れない需要家は、旧世代品への回帰、設計変更によるメモリ搭載量の削減(参考:NVIDIA、Rubin UltraのHBM搭載量を下方検討)、あるいは供給者との資本提携という選択を迫られる。
AI需要という太い流れは、上流のファウンドリ(参考:TSMC、7月売上高が前年比44.7%増で過去最高)からメモリ、後工程、部材へと順に流れ込んでいる。43兆ウォンという数字は、その流れが2028年に向けてなお太くなる前提で動いていることを示す。同時に、顧客構成の静かな変化は、流れ込む先が一つではなくなりつつあることも示している。次の四半期で見るべきは投資額ではなく、誰から売上が立っているかである。
出典
・TrendForce News「[News] Samsung, SK hynix 1H26 Chip Facility Investment Up 35%; NVIDIA Not Among Samsung’s Top Five Customers」2026年8月17日
・Etoday(韓国)/サムスン電子・SK hynix 2026年半期報告書(金融監督院DART、2026年8月14日提出)
・ソウル経済新聞(Seoul Economic Daily)2026年8月
・毎日経済新聞(Maeil Business Newspaper)2026年8月
・M Today(autodaily.co.kr)2026年8月
・TrendForce プレスリリース「Diverging Memory Market Outlook in 2027…」2026年7月30日
※各社の開示数値以外は報道ベースの情報を含みます。
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