結論:サムスン電子のファウンドリ部門が、2026年下期に稼働率100%への回復を目指している。原動力は外部顧客の大型受注ではなく、自社メモリ部門が量産するHBM4の「ベースダイ」だ。HBM4世代でベースダイの製造がDRAM工程からロジック(ファウンドリ)工程へ移ったことで、メモリとファウンドリを一社に抱えるサムスンのIDM構造が、初めて明確な強みとして機能し始めた。赤字が続いてきた同部門にとって、これは単なる景気回復ではなく「事業構造の転換点」である。
メモリが営業利益の99.7%──「一本足」決算の裏で動き出した再建シナリオ
7月末の決算説明会で、サムスンは市場予想を上回る好決算を発表したが、その中身は極端だった。営業利益の99.7%をメモリ事業が稼ぎ出し、ファウンドリとSystem LSIを合わせた非メモリ部門は第2四半期に約6,000億ウォンの赤字を計上したと報じられている(報道ベース)。
ところがその直後、韓国Chosun Bizは「サムスン・ファウンドリが下期に稼働率100%を目指す」と報道した。現在の稼働率は70〜80%。昨年は4nm・5nmといった主力ノードですら稼働率が50%を割り込んでいたことを踏まえると、急激な回復である。HuffPost Koreaが引用したアナリストレポートは、早ければ第3四半期にも黒字転換すると予測する。半導体部門トップの韓進満(ハン・ジンマン)氏がかつて示した「2028年黒字化」目標を、大幅に前倒しするシナリオだ。
回復の主役は「HBM4ベースダイ」──メモリ好況がファウンドリを引っ張る構造
稼働率回復の最大の牽引役は、HBM4のベースダイである。ここに今回のニュースの構造的な核心がある。HBMの最下層に位置するベースダイは、HBM3E世代まではDRAMプロセスで作られていたが、HBM4世代からはロジックプロセスで製造される。SK hynixがベースダイをTSMCに委託するのに対し、サムスンはメモリもファウンドリも自社に持つため、ベースダイを自社4nm系プロセスで内製できる。
つまり、NVIDIAのRubin世代が牽引するHBM4需要が伸びるほど、サムスン自身のファウンドリの稼働が自動的に埋まる構造が生まれた。SK hynixが総額54兆ウォンの新工場投資で先行するHBM競争は、ファウンドリ事業の損益をも左右する「垂直統合の勝負」に変わりつつある。
2nm歩留まり60%の壁──BroadcomとGoogle「Icefish」が示す信頼回復
もっとも、再建が本物になるかは先端ノードの歩留まり次第だ。Chosun Bizによれば、サムスンの2nm歩留まりは現在約60%。大型量産契約を獲得するには70%程度まで引き上げる必要があるとされる(報道ベース)。それでも顧客の動きは変わり始めた。韓国News1は、Broadcomなど大手顧客との2nm取引が拡大し、受注量が今年、前年比で倍増以上になると報じている。
さらに米The Informationによれば、Googleは次世代TPU「Icefish」の主演算ダイをTSMCに委託する一方、メモリとの接続を担うI/O系コンポーネントをサムスンの2nmで製造させる可能性がある。チップレット化によって「主要ダイはTSMC、周辺ダイはサムスン」という部分的な発注分散が可能になったことも、サムスンに追い風だ。なお歩留まり改善の現場では、SK hynixが出資するGauss LabsのようなAIバーチャルメトロロジーの活用が業界全体で進んでおり、歩留まり競争は今やAIデータ解析の競争でもある。
「TSMC一強」の隙間──キャパ逼迫が生むセカンドソースの順番
この動きの背景には、TSMCの先端キャパシティ逼迫がある。TSMCは7月売上高が前年比44.7%増で過去最高を記録し、MicrosoftのMaia 300のような大口AI ASICの発注も殺到している。先端プロセスの奪い合いが激しくなるほど、顧客側には調達リスクを分散する動機が生まれ、「セカンドソースとしてのサムスン」に順番が回ってくる。
実際、サムスンの事業構成は既に変わり始めている。今年はファウンドリ売上の5割超を先端プロセスが占め、AI・HPC関連の売上比率は昨年の10%台後半から30%超へ上昇する見込みと報じられている。
構造的に何を見るべきか──3つのチェックポイント
今後注目すべきは3点ある。第一に、2nm歩留まりが「70%の壁」を越えるか。ここを越えれば大型量産契約の獲得が現実になる。第二に、第3四半期に本当に黒字転換するか。HBM4ベースダイという「内需」による黒字化は、外部顧客獲得による黒字化より持続性の検証が必要だ。第三に、BroadcomやGoogleとの取引が「試し玉」から本採用に育つかである。
日本企業にとっても他人事ではない。サムスンの稼働率が70%台から100%へ向かえば、製造装置・部材・搬送・ガス供給といったサプライチェーン全体に発注が波及する。TSMC一強構造の「二番手」が息を吹き返すかどうかは、日本のサプライヤーの受注構成にも直結するテーマだ。
出典:TrendForce「Samsung Foundry Eyes 2H26 Full Utilization as HBM4 Base Dies and U.S. Orders Fuel Turnaround Hopes」(2026年8月3日)。同記事はChosun Biz(2026年8月3日)、Newsis(2026年8月2日)、HuffPost Korea、News1、The Informationの報道を引用。
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