結論:サムスン電子は2026年8月5日(米国時間)、米サンタクララで開催された「Future of Memory and Storage(FMS)2026」で、HBMをAIアクセラレータの真上に垂直積層する次世代メモリ構想「zHBM」と、業界初のウエハボンディング型NAND「V10 BV-NAND」(400層超)を公開した。単なる新製品発表ではない。メモリを「プロセッサの横に並べる」時代から「真上に積む」時代への移行を、メモリ最大手が公式ロードマップとして宣言したことに意味がある。ウエハボンディングという共通技術がDRAMとNANDの両方を貫き、メモリとパッケージングの境界が溶け始めた——これが今回の発表の構造的な本質だ。
発表の中身——zHBM・zNAND-O・V10 BV-NANDの3本柱
サムスンはFMS 2026の基調講演「Driving the Wave of AI Revolution: 3D Innovations in Memory & Storage Architecture」に登壇し、ブースでは約30種類のメモリ・ストレージ技術を展示した。発表の柱は3つある。
第一がzHBM。従来のHBMはシリコンインターポーザ上でGPUの「横」に配置されてきたが、zHBMはHBMをAIアクセラレータの「直上」に積む。同社発表ベースの数値では、zHBMを組み込んだ次世代インターフェースシステムはHBM5比で約8倍の性能を狙い、次世代ウエハボンディング技術によりメモリ密度はHBM5比10倍超、エネルギー効率は3倍、熱抵抗は半分以下を目指すという。
第二がzNAND-O。V-NANDをベースにした高性能NANDで、4層版と8層版を開発中。低レイテンシと省スペース性を武器に、リアルタイム処理が求められるエッジAI環境を想定する。
第三がV10 BV-NAND。2013年に業界初のV-NANDを発表してから13年、今回はウエハボンディングでメモリセルを積層する「Bonding V-NAND」アーキテクチャを業界で初めて公開した。400層超の構造で、前世代V9比で記憶密度を約58%高めている。
「横に並べる」から「真上に積む」へ——何が構造的に変わるのか
現行のAIサーバーでは、GPUとHBMの間をデータが「横方向」に往復する距離と、その移動に伴う消費電力がボトルネックになっている。CoWoSに代表される2.5D実装は、この横方向の配線をいかに短く・太くするかの勝負だった。zHBMはこの前提そのものを壊す。メモリを演算チップの真上に置けば、データの移動距離は物理的に最短となり、帯域と電力効率を同時に改善できる。
ただし課題も構造的だ。AIアクセラレータは数百ワット級の発熱体であり、その真上に熱に弱いDRAMを積むのは、熱設計の観点では本来最も避けたい配置でもある。サムスンが「熱抵抗を半分以下に」とわざわざ強調するのは、裏を返せば熱こそが3D積層の最大の壁だからだ。
もう一つ見逃せないのは、zHBMがメモリとアクセラレータの中間層に顧客固有のカスタムIPを組み込める設計になっている点だ。これはHBM4世代で始まった「ベースダイのカスタム化」の延長線上にあり、メモリメーカーが顧客ごとの専用シリコンを設計する領域へ踏み込むことを意味する。メモリは規格品のコモディティから、「顧客と共同設計する専用部品」へと性格を変えつつある。
ウエハボンディングがDRAMとNANDを貫く共通技術に
今回の発表で注目すべきは、zHBM(DRAM側)とV10 BV-NAND(NAND側)の両方で「ウエハボンディング」が中核技術になっていることだ。NANDではキオクシア・Western Digital連合がCBA(アレイ直接接合)方式を先行させてきたが、サムスンは400層超のBV-NANDでこの土俵に本格参入し、一気に上書きを狙う格好だ。
接合が主戦場になるということは、恩恵が装置・材料側にも波及するということでもある。ハイブリッドボンディング装置、ボンダー・ダイソーター、そして接合面の検査・計測。CoWoS向けダイソーター・ダイボンダーを手がける台湾Gallant Micro. Machiningのような実装装置メーカーや、AIバーチャルメトロロジーで計測を補完するGauss Labsのようなプレーヤーの重要性は一段と増す。積層数が増えるほど歩留まり管理は難しくなり、検査・メトロロジーが利益の源泉になる構図である。
競争構造——SK hynix・NVIDIAとの三角関係で読む
HBM市場で首位を走るSK hynixは総額54兆ウォンの新工場投資で「量」の確保に動き、需要側ではNVIDIAがRubin UltraのHBM仕様引き下げを検討と報じられるなど、需給の綱引きが続いている。この文脈でzHBM構想を読むと、サムスンの戦略は「量で追う」のではなく「アーキテクチャの世代交代で先回りする」ことにあると分かる。
サムスンの独自性は、メモリ・ファウンドリ・先端パッケージングを一社で抱える唯一のIDM(垂直統合型メーカー)である点だ。zHBMのようにメモリとロジックの物理的統合が進むほど、この垂直統合は効いてくる。対するSK hynixはHBM4のベースダイをTSMCに委ねる分業路線であり、「統合か、分業か」という設計思想の違いが、次世代HBMの勝敗を分ける変数になる。
世界半導体売上がQ2に4,033億ドルへ拡大する中で、AIメモリはその成長の中核にいる。ただしzHBMはあくまでコンセプト段階であり、量産時期は明示されていない。性能・密度・効率の数値はすべて同社発表ベースである点にも留意したい。
今後の注目点
短期では、2月に業界初の量産を開始したHBM4(1c DRAM・4nmベースダイ)と、5月にサンプル出荷を始めたHBM4Eの顧客認定が、サムスンのHBMシェア回復の試金石になる。中期では、zHBMの標準化と顧客採用の行方、そしてハイブリッドボンディング関連の装置・材料・検査サプライチェーンへ投資がどこまで波及するかが焦点だ。「メモリの3D化」は、メモリメーカー間の競争にとどまらず、装置・材料・検査の勢力図まで塗り替える構造変化の入り口にある。
出典:Samsung Global Newsroom「Samsung Unveils Next-Gen 3D-Memory Vision at FMS 2026, Charting the Future of AI Infrastructure」(2026年8月5日)
半導体業界のM&A・参入・投資をご検討の方へ
本記事のような業界構造の分析をふまえ、半導体業界へのM&A・新規参入・企業分析を実務目線でご支援しています。まずはお気軽にご相談ください。
🏢 お問い合わせ:テックメディックス総研株式会社
◆ M&A・投資視点のより深い企業分析はnoteで公開しています
→ 半導体業界動向マガジン(高野聖義)
◆ 半導体業界へのM&A・参入・コンサルティングをご検討の方
→ 初回相談無料|テックメディックス総研株式会社
